「お母さん。これ、ホントにおいしいね」
「そうでしょう」
商業ギルドの天幕の近くには露店で買ったものを食べる事ができるとこが作ってあって、僕たちはそこでさっそく買ったばかりのベニオウの実を食べてるんだ。
このベニオウの実なんだけど、お母さんのげんこつくらいおっきくて真ん丸なんだ。
でね、薄くて真っ赤な皮をむくと中から真っ白な実が出て来て、それをかじるとおててがベッタベタになるくらいいっぱいお汁が出て来てとってもおいしいんだよね。
だから僕もお兄ちゃんたお姉ちゃんたちも、夢中になってベニオウの実にかぶりついてたんだ。
「そう言えば俺たちがポイズンフロッグを狩ってる間、レーアたちは何してたんだ?」
そしたらね、最初に食べ終わったお父さんがお姉ちゃんたちに、イーノックカウでお留守番してた時は何してたの? って聞いたんだよね。
「私たち? えっとねぇ、錬金術ギルドのお姉さんと一緒に、いろんなお店を周ってたよ」
「あのね、ペソラお姉さんが、かわいいとこにいっぱい連れてってくれたんだ」
「それはよかったわね。でもギルドのお仕事も忙しいでしょうに、ご迷惑じゃなかったかしら?」
「うん。だからね、私たちもどっかいいとこない? って聞くだけのつもりだったんだ」
「でもでも、ギルドにいたむらさき色の服着たおばさんが、一緒に行っていいよって言ってくれたんだよ」
お姉ちゃんたちははじめ、僕たちが狩りに行っていた間に何やろうかなぁ? って思ってたんだって。
なんでかって言うと、二人ともそんなにイーノックカウの事に詳しくないからなんだ。
でね、そんな時にレーア姉ちゃんが、そう言えば錬金術ギルドにいるペソラさんにいいとこが無いか聞けばいいんじゃないの? って思いついたんだってさ。
と言うわけで早速錬金術ギルドまで行ったそうなんだけど、そしたらそこにはペソラさんだけじゃなくって、ギルドマスターのバーリマンさんもいたんだってさ。
だからバーリマンさんも一緒になってお姉ちゃんたちのお話を聞いてたそうなんだけど、そしたら、
「あら。ルディーン君や親御さんたちはこの街のためにポイズンフロッグ退治に出かけてくれてるんでしょ? だったら私たち街の住人もそのお礼に何かしないといけないわね」
って言ってペソラさんに僕たちの狩りが終わるまでの間、お姉ちゃんたちの案内をしてあげてねって言ったんだってさ。
「ペソラお姉さんはね、さいしょはほんとに行っていいの? って聞いてたんだよ。でもね、おばさんはニコニコしながらいいよって」
「うん。いつもいるお爺さんがいるでしょ? あの人が毎日のように来るから、昼間の店番は任せればいいよって言ってくれたんだ」
そっか。僕が初めて錬金術ギルドに行った時もペソラさんはいなくって、ロルフさん一人が店番してたもん。
って事は、ペソラさんがいなくったってロルフさんが居れば大丈夫って事だよね。
「そうなの。それで、どんなところに連れて行ってもらったのかしら?」
「えっとね、お店とかにも言ったけど、わたしが一番楽しかったのは、おっきな公園につれてってもらった時かな」
「そう言えばキャリーナ、噴水を見て大騒ぎしてたわよね」
イーノックカウにはね、真ん中におっきな噴水がある公園があるんだって。
噴水なんて僕たちの村には無いでしょ?
それにイーノックカウに来たとしても露店街や商店とかになら行くかもしんないけど、そんな公園なんかに行ったことはお姉ちゃんたちは一度も無かったから、その噴水を見てびっくりしたんだってさ。
「だってだって、お水がビューって、お空に向かってとんでってるんだよ。それに、その周りはちっちゃな滝みたいになってるし」
「そうよね。あれってどうやってるんだろう? やっぱり魔道具なのかなぁ?」
お姉ちゃんたちが言うには、その噴水はまあるい形で、真ん中からお水が噴き出してるんだって。
それがとってもきれいだったんだけど、途中から何でそんな事ができるんだろう? って不思議に思ったんだってさ。
だからお姉ちゃんたちはペソラさんに聞いてみたそうなんだけど、そしたら解らないって言われちゃったんだってさ。
「ペソラお姉さんも、そう言えばふしぎねって言ってたんだよ」
「そうよね。ペソラさんももしかしたら水の魔石を使った魔道具かも? って言ってたんだけど、でもずっとあれだけの水を出し続けようと思ったら普通の大きさの魔石じゃ作れないのよねって。ねぇ、ルディーン。そんな魔道具、作れると思う?」
「えっ、僕?」
いきなりレーア姉ちゃんにそんなこと言われて、僕もどうかなぁ? って頭をこてんって倒したんだ。
多分ペソラさんが言ってた通り、水の魔石を使えばおんなじような事はできると思うんだ。
でもね、魔道具でずっとお水を出してるとしたら、ものすごくいっぱい魔道リキッドがいると思うんだよね。
「作れると思うけど、すっごくお金がかかっちゃうよ。だから魔道具じゃないんじゃないかなぁ?」
「そっか。ルディーンが言うならそうなのかもしれないわね」
そう言いながら、だったらあれはどうやってるんだろう? って頭をこてんと倒すレーア姉ちゃん。
それにつられてキャリーナ姉ちゃんと僕も一緒になって考え出したもんだから、お母さんがくすくすと笑いだしたんだ。
「どうしたの? お母さん」
「ふふふっ、私もね、昔ルディーンたちと同じように思った事があるのよ」
お母さんもずっと前に、お姉ちゃんたちが行った公園で噴水を見た事があるんだって。
でね、その時はレーア姉ちゃんたちとおんなじように不思議に思ったんだよって、お母さんは僕たちに教えてくれたんだ。
「じゃあさ、もしかしてお母さんはあれ、どうやってるのか知ってるの?」
「ええ。いろんな人に聞いてみたら、知ってる人が居たから教えてもらったわよ」
なんと、お母さんは噴水がどうやってできてるのかを知ってたんだ。
だからね、僕とお姉ちゃんたちは教えてった頼んだんだけど、そしたらいいよって。
「あの噴水はね、魔法なんか全然使ってないらしいわ。すべて水の力だけで噴出してるらしいのよ」
「え〜、でもお水が上にピューって上に出てたよ」
「ええ、そうね。でもそれは圧力ってので何とかなってるらしいわ」
お母さんもね、お話を聞いたんだけどよくは解ってないんだって。
でもその時に聞いた話によると、高いとこにあるお水んとこから地面を掘って低いとこまで持ってくると、何でか知らないけどそんな風にピューってお水が上に噴き出すんだってさ。
「イーノック悪の水源は横に流れてる大きな川でしょ? そこから見て、あなたたちの行った公園は低い位置にあるらしいのよ。だから川の中から水を通すだけで、あんなものができるそうよ」
「へぇ、そうなんだ。不思議だね」
お母さんはね、この街の地面の下にはその噴水とおんなじようにお水が通てるとこがいっぱいあるんだよってその人から教えてもらったんだって。
でね、そのお水が地面の中を流れてるから、こんなおっきな街なのに何処でも井戸が使えるんだってさ。
「地下水が無い所をいくら掘っても水は出ないでしょ? でもその地下を流れてるおかげでどこにでも井戸が作れるから、この街はここまで大きくなったって話よ」
「そっか。遠くまでお水を汲みに行かないとダメだったらすっごく大変だもんね」
うちの村だって、真ん中に流れてる川からお水を汲んでくるだけでもお父さんたちは大変そうだもん。
もしこの街の外に流れてる川からお水を汲んで来ないとダメだったら、きっとみんな困っちゃうよね。
そんな事を考えながら僕は、そんなすごい事を知ってるなんて、お母さんに教えてくれた人はほんとにすごいなぁって思ったんだ。
だからね、誰に教えてもらったの? って聞いたんだよ。
そしたら、くすくす笑いながら僕もよく知ってる人よって。
で、その人が誰だったかと言うと、なんと冒険者ギルドの受付をやってるルルモアさんだったんだ。
「あの人、エルフでしょ? だからこの町に住み始めてからも何度かそんな地下水路の工事を何度かやってるところを見た事があるらしくって、レーアたちが見に行った噴水も、この町に住み始めた後にできたからその工事も見ていたのよって教えてくれたわ」
そう言えばエルフってすっごく長生きだって言ってたよね。
それにこないだお菓子屋さんに行った時も、この店のおいしいお店屋さんのほとんどはできた時から知ってるって言ってたもん。
この街の事だったらきっと、ルルモアさんに聞けば全部解っちゃうんじゃないかなぁ?
だから僕、お母さんにそう言ったんだ。
そしたら、
「流石にそれは無理よ。だってルルモアさんだって、この街ができたころから住んでたわけじゃないもの」
そう言って、でもある程度の事までなら何でも答えてくれるでしょうねって、お母さんは笑ったんだ。
水の性質なんて現代人ならだれでも知っているから、ルディーン君が知らないのはおかしいと思われるかもしれません。
でも、これって案外人から指摘されないと気付かないものなんじゃないかなぁ? って思うんですよ。
かく言う私も、金沢にある兼六園で同じ原理の噴水の説明をバスガイドさんから聞いて、凄いなぁと感心した一人ですw